2023年8月、ドキュメンタリー「ボードゲームデザイナーズ」のためにみさき工房のみさき様にインタビューを行いました。この記事では、その内容を文字起こしして公開します。
みさき工房について
- 自己紹介をお願いします。
みさき:みさき工房というサークルで活動しております、みさきと申します。
ゲームマーケット初出展がまず2008年のゲームマーケットになりますね。
基本的には私は好きなデジタルゲームをボードゲームに落とし込むのが好きだということで、それに準じた作品が1作目になっております。
あと、自分のもう一つの趣味であるメイド好きということで、そちらの方のゲームも作成してきております。
- ゲームづくりを始めたきっかけは?
みさき:最近リメイクされた「アルケミスト」という、自分でレシピを作るボードゲームがあるんですが、錬金術をテーマにして自分で自由にレシピを作って、それを人に使ってもらうことで特典を得るというゲームがあります。
それを2006年か7年に1度遊ばせていただきまして、それでインスピレーションを得て、気がついたら物ができていたという感じですね。
- ゲームを作る時に心がけていることは?
みさき:自分の信条はシンプルイズベストですね。これはもう昔から変わりません。
もう一つ、サブとしては最初に決めた世界に忠実に即すこと。
これは最初に言いました、好きなデジタルゲームのボードゲーム化というところに準じております。
大事なのは、いかにシンプルであり、いかに自分の理想世界に準じたものができるかというところですね。迷ったらシンプルな方を選びますね。
- メイドが趣味とのことですが、そこをもう少し詳しくお願いします。
みさき:やはり非日常的なことと、清楚であるところと、あとギャップですね。戦うメイドさんが自分は好きであります。うんメイドさんはいいですよ。
「メイドたちがボードゲームを作るようです」
- 「メイドたちがボードゲームを作るようです」のような冊子を出したりしていらっしゃいますが、その冊子についてご紹介いただけますでしょうか。
みさき:小冊子の中身についてなんですが、中身よりも先に、何でそれ作ったのか、まずはそこの話からさせていただきます。
まず、元々自分はTwitterで自作ボードゲームの技術情報をダラダラと垂れ流すのが趣味でありまして、ある日ふと「ただ、だらだら垂れ流すものをまとめて本にすりゃいいものができるのではないかな」とツイートしたところ、BraveLilyというサークルのLilyさんという方が声かけしてくれまして、「私が編集してみますから、ちょっと一緒にやってみませんか」と声をかけていただいたんですね。せっかくだから乗っかってみようかなということでできたものがあの本になります。
どんな本かという話をさせていただきますと、元々原稿は、私がTwitterでだらだら流してるだけなので、それもメイドさんお二人の会話形式プラスまとめノートというシンプルな形にして分かりやすく整理整頓されたと。
まとめたのは私じゃないんですけど、おかげさまでいいものができましたという形になります。
- 2023年の秋にもまた冊子を出すとお聞きしましたが。
みさき:「メイドたちがボードゲームを作るようです」を出したのが、たしか2019年のゲームマーケット大阪、2月から3月あたりだったたかと思いますが、そこからもう4年以上経過しているのが一つと、コロナの影響があまりにも大きくて、もう状況が全然変わってしまったんですね。ちょっと情報があまりにも古くなってしまったので、まあいい機会だから更新版を出そうかなとふっとある時思いまして、それで今やってますね。
書籍はですね「錬金術師がボードゲームを作るようです」というタイトルになります。
なんでそんなタイトルになったのかをちょっと補足させていただきますと、2023年、ゲームは春に「アルケミストのアトリエ」というボードゲームを出しておりまして、ちょうど錬金術師の女の子が5人主役で登場するゲームなんですね。
まあ、メイドたちをそのまま続投させるのもちょっとなということもありまして、ちょうどいいやということで出演させてもらうという形になりました。
- 2023秋はそれ以外に何を出しますか?
みさき:新作というよりは、ちょっとリメイクまとめ版というのに近いんですが、まず1つ目は「リトルマイメイドコンプリートセット」というものを出させていただきます。
具体的に中身を説明しますと、2019年に「リトルマイメイド」、ゲムマ大阪で出したんですが、それと、その続編、第2弾の「メイドのつとめ」、第3弾の「メイドインダンジョン」と、プラス「リトルマイメイド外伝ノアストーリー」という同人誌ですね、こちらの方がですね、コロナの影響でちょっと私の目測が甘く、だいぶ在庫っちゃいましてね。まあ、そろそろ在庫小屋を圧迫してきたので、おまとめしてぎゅっとして売ろうかなということがあります。
もう一つは、「セプター」の拡張同梱版もちょっと値下げして出そうかと思います。こちらも似たような理由ですね。
みさき工房杯
- みさき工房で実施しているコンペについて教えてください。
みさき:正式名称はみさき工房杯という名称でやらさせていただきまして、今回で3回目になります。
1年に1回、ちょっと恒例にするかどうかは何とも言えないところですが、まずはなんでやるようになっちゃったのっていうところからお話させていただきますと、高尚な理由は何一つなくてですね、何か面白そうだからついかっとなってやった、反省はしていない、と、こういうやつです。
そしたら思ったより反響がありまして、せっかくだから第2回やってしまおうということでやって、今回が3回目になります。
まだちょっと締め切りまではもう少し先ですが、反応を見て第4回があるかどうかはそれ次第ですね。
- 選考の基準は?
みさき:じゃあまず優秀賞に選ぶ基準というものから、まず最初に言わせていただきます。
実はみさき工房杯では予選と準決勝と決勝と3段階審査を行っています。それぞれ異なる切り口で中身を見ています。見るのは私一人なんですけどね。
まず予選では、このみさき工房杯に挑む姿勢、考え方、その辺を見ています。中身はこの時点では見ません。よっぽどでないとはねられることはないと思いますが、あからさまにアレな場合ははねることがあります。
で、次に準決勝から、ここで本格的に中身の説明書の方を確認していきます。
この時点で何を見てるかという基準ですが、現ゲムマ環境で戦えそうかどうかというところを、私のこの16年の経験値と、現ゲムマ環境の状況とで判断する。足でいろいろ見てますからね、私が。ゲムマで並べてそれなりに結果が出そうかどうか、ここを見ています。
もしくは私が「お、これはいけるぞ」と思ったら、そういう時は1発合格ですね。
このどちらかの条件を満たせばクリアです。
で、ここをクリアしたものが優秀賞以上に確定します。
第1回では6作品です。第2回では2作品、第3回はこれからなので未定です。
- ゲーム制作ノウハウをTwitterで流すとか、みさき工房杯とかの活動が制作ノウハウの継承につながっていくのは、大変面白い現象だと思います。
みさき:ありがとうございます。確か、上杉さん(I was gameの上杉真人氏)にも同じようなことを言われましたね。
業界の貢献になるとということで、ちょっとあれですが、上杉さんにもちょっと「錬金術士がボードゲームを作るようです」の文章ができたら、ちょっと見てもらおうかと思ってます。文章校正という話になりますけどね、その頼んだ際に同じことを言われました。
あんまり高尚なことをやっているつもりはないんですけども、自分では。
原価率と現在のゲムマ環境
- 「メイドたちがボードゲームを作るようです」に出ていた、ゲームの原価率の話について解説をお願いします。
みさき:これもですね、いろんなボードゲームを作っている方に、Twitterでアンケートをとっておりまして、皆さんの最近作ったゲームの原価率とはどのぐらいですかっていうアンケートをとらせていただきました。
(画像は2024年時点の調査結果であり、インタビュー当時とは若干数値が異なります)
ちょっと最近もとったんですが、おおむね20%は原価割れで、33%以下の人が大体30%ぐらいかな、で、残りは66%超えのところが一番多かったかなという印象です。
ちょっと補足させていただきますと、33%はもう商業クラスですから、東急ハンズさんとかに並んでいる、いわゆるああいうところに並んでるものが大体33%以下です。じゃないと商売としてやっとられんですからね。
上位陣、いわゆる大手と呼ばれるところが恐らく33%から66%の間に入ってくるんじゃないかと思います。そこら辺に入るには、もう100や200じゃ全然足りてないんでね。いくらを作ってるか私は把握してませんが、とにかく大量生産しないと出せない領域の話です。
一般の人は66%以上100%未満に行けば、まあ上々じゃないかなと自分は思っていますし、自分のゲームもその辺の領域です。ちなみに100%に近い方の100%以下です。
私はまあ、多分全部売れて場所代払って交通費宿代も払えば溢れちゃうんじゃないっていうレベルなんですが、大体ほとんどの人はこの領域かもしくは原価割れですね。
- 原価割れでもゲームを出す人というのはどんな人でしょうか?
みさき:基本的には最初から赤字を出す、原価割れ上等で出す人はいないんじゃないかとは思うんですが、自分のやりたいことをゲームを作る上で詰めて、印刷屋さんに持って行って、見積もりをもらって「うわ、高い」と、ほとんどの人がこう思います。
で、そこからが勝負ですね。どうするか。削るのか、このまま走り切るのか。
このまま走り切りの場合は原価割れ確定です。
それはそういう選択、覚悟の上で、そういう選択をしたかった、という感じですよね。で、削る選択肢をうまく考えた人は恐らく66%から100%の間に収まると思います。
ただ、原価率というのは、自分はただの数字だなと思ってまして、要は全部売れて初めて原価率というのは意味を持つ数字だと思ってます。
極端な話、1個も売れなかったら、原価率意味がありませんからね。ただ、作っただけのお金が消えて、手元のお金は0円になって、在庫の山だけが残ります。この状態だと原価率もクソもないです。
- 現在のゲームマーケットはゲームの供給過多という印象がありますが。
みさき:そうですね。まず、ゲームマーケットで作る人たちに若い方が昔よりも増えたかなという印象を感じております。
これはボードゲームを遊ぶ人口が昔よりも明確に増えてますし、ちょっと話が飛びますが、私の主催している名古屋テストプレイ会でも、学生さんの方がよく参加してくれるんですね。そういう若い方たちがどんどん参入してきているというのが正直なところ現状であります。
そうすると、どうしても数が多く作る分、作り手が増えてくると、どうしても供給の方が多くなってくるんですね。
で、じゃあ何で買う方がそんなに追い付かないのかという話もちょっと合わせてさせていただくと、いわゆるヘビーユーザーという層はそんなに増えてなくてですね、来場者は確かに増えているんですが、ちょっと変な言い方をすると、財布をたくさん持っている人ってのはそんなに増えてないんですよ。財布の紐が固くてあんま持っていない人だけが増えてきてるのですよね。そうすると何が起こるかというと、供給された量が買いきれない現象が起こりましてで、供給過剰ということになるんじゃないかと自分と定義しています。
名古屋テストプレイ会
- 名古屋テストプレイ会について教えてください。
みさき:まず名古屋テストプレイ会ができる前の話からちょっとさせていただきますね。
自分もそうなんですが、実は名古屋のデザイナーって、ゲームデザイナー同士の接点がほとんどなかったんですよ。名古屋テストプレイ会をやる前は、ほとんどそういうコミュニティーがなかったんですね。
なので各自バラバラで身内でやってたか、私みたいにオープン会を渡り歩いてたかっていう感じです。余談ですが、オープン会を渡り歩いても全然遭遇しなかったですね、名古屋のボードゲームのデザイナーには。
じゃ、どのようにそれが形成されたのかという話をちょっとさせていただくと、モリカワBGMさん、名古屋の印刷所の紙屋さんなんですが、懇親会、要は飲み会です、コロナ前の話なんですけどね、をやって、そこで上杉さんがですね、私に「名古屋でもテストプレイ会やりましょうよ」と言うんですね。「自分がやります」とは一言も言わずに私に「やりましょうよ」と言うんですね。
んで、「ダンジョンオブマンダムエイト」を上杉さんからもらっちゃった手前、「じゃあいいよ、やるよ、じゃあお前が副主催やれ」と返して今に至るという感じですね。
- 名古屋テストプレイ会の参加人数は?
みさき:どちらの部屋も定員は24ですのでは大体埋まってますね。当日キャンセルが出る時以外はだいたいいっぱいですね。
余談ですが、最近は学生さんとかの若い方もよく来てますよ。若い力がどんどん来ていて活気があって大変よろしいです。
ボードゲームデザイナーへのメッセージ
- ボードゲームデザイナーや、これからボードゲームを作ろうとしている方へのメッセージをお願いします。
みさき:2つありますね。
まずは一歩踏み込んでみること。やってみて初めて見えてくるものもあるのでね。
で、2つ目。先人、要はすでに挑戦した人がどのようにやってどのように失敗したかの方の話、経験、こちらの知識が手に入るのであれば、並行して入れたいですね。
基本的に失敗した人と同じことをやると失敗します。失敗には再現性がありますからね。
ただ失敗話ばかり聞いて一歩踏み込むのをやめてしまうと、やはりそのままになってしまうんですね。
なので、まずは踏み込む、で知識も入れる。
3つ目になっちゃうけど、海外のボードゲームを遊んでおく経験をたくさんやっておくと、アイデアの引き出しが増えるんで選択肢が広がりますね。それはだいぶ楽に自分を楽にしてくれます。
行動プラス知識、こんなとこですかね。頑張ってください。
- 今日はありがとうございました。
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特別編の「ボードゲームデザイナーを目指す人々への言葉」も公開しています。